半導体レーザ(Tunable diode laser absorption spectroscopy:TDLAS)についての基礎
近年、半導体レーザは光計測の主要な光源となってきた。それは半導体レーザが計測用光源として、
- 小型・軽量・集積可能である。
- 低電圧駆動でかつ発振の量子効率が高い。
- 内部変調による出力パワーの変調・制御が容易である。
- 単一モード発振が得やすい。
- 発振周波数が可変である(同調可能レーザ)。
- 高輝度、低コヒーレンス光源にもなる(SLD)。
- 光増幅器として使える。
- 安価である。
などの優れた特徴を有するからである。
光源が小型・軽量であることは、光計測法の実用化にとって非常に重要であり、従来、計測用レーザとして汎用的であった He-Ne レーザと比較すると、真空管と IC トランジスターほどの差異がある。
半導体レーザは、半導体の順方向に電流を流して発振させるので低電圧で駆動し、電源も小型・軽量となる。
半導体レーザは発振パワーの量子効率が高く、40%以上にも達する。
He-Ne レーザのそれが約0.01%であることと比較して、エネルギーの有効利用の点でも半導体レーザのほうが1000倍以上も優れている。
このように半導体レーザが低電圧駆動、低消費エネルギーであることは光応用センサーを大量に使う場合にとくに有利なことであり、センサーの多重化などを容易にする。
気体の吸収法は古くから研究が行われているが、1~2μm帯の近赤外領域の吸収を用いた半導体レーザ分光法に関する研究はStanford大学のR. K. Hansonらによって1990年頃に始められた。
最近ではレーザ開発技術の発展に伴い、光源自体も通信用のものからガス計測に適した波長分解能優れた特殊波長のDFB型(分布帰還型:Distributed Feed-back)レーザが使用されるようになってきた。
下図に示すように、気体に波数vの光が入射すると吸収によりその透過光強度はLambert-Beerの法則により
に従い減衰する。
ここでIoは入射光強度、Iは透過光強度、Lは光路長, kvは吸収係数である。
図1 Lambert-Beerの法則
各種気体は表1に示すようにそれぞれ固有の吸収波長帯を持っており、その吸収波長帯には多くの吸収線が存在している。
図2に示すように、これらの吸収線のうちの1本に対して半導体レーザの発振波長を掃引する事によって吸収を測定する。
この波形と参照光波形との比を取ることによりスペクトルプロファイルを測定する。
表1 各種ガスの吸収波長
温度計測を行うためには、このスペクトルファイルを異なる2つの吸収線について測定し、それらの面積比(またはピークの高さの比)を取ることにより算出する事が出来る。
図2スペクトルプロファイルの測定
これを振動数Vで積分した積分吸収係数Kは式(3)で表される。
ここで、S(T) [cm-2atm-1]は吸収線遷移強度,Pabs [atm]は光を吸収する気体の分圧、φV [cm]は線形関数である。
複数の吸収線のスペクトルプロファイルから1つの複合スペクトルプロファイルを形成している気体の場合、その複合スペクトルプロファイルの吸収度Aは、式(4)に示すようにスペクトルプロファイル下部の総面積で表される。
2つの複合スペクトルプロファイルについて吸収度を測定し、それらの比Rと式(5)から温度Tを算出する。
全圧P[atm]と光路長L[cm]が既知である場合、式(5)から求めた温度Tと式(4)から測定気体のモル分率を求めることが可能である。
ここで、h [J・s]はプランク定数,k [J/K]はボルツマン定数,c [cm/s]は光速、E" [cm-1]は下準位のエネルギーであり、各吸収線におけるS(T),S(To),の値としてはHITRAN96/98及びHITEMPの値を用いた。
半導体レーザによるガス分子種計測 (実験装置概略図)
参考文献
- 伊藤良一、中村道治:“基礎と応用 半導体レーザ”(培風館,1989)
- 永井治男、安達定雄、福井孝志:“Ⅲ-Ⅴ族半導体混晶”(フォトニクスシリーズ、コロナ社,1988)
- 山口一郎、角田義人:半導体レーザと光計測(日本分光会 測定法シリーズ、学会出版センター、1992)
- 尾崎幸洋、河田聡:近赤外分光法(日本分光学会 測定法シリーズ、学会出版センター、1996)
- P.W.ATKINS著、千原秀昭、中村亘男:物理化学 下 (東京化学同人、1980)
- L.C. Philippe and R.K. Hanson, "Tunable diode laser absorption sensor for temperature and velocity measurements of O2 in air flows", AIAA paper, 91-0360, 1991.
- Michael E. Webber, Suhong Kim, Douglas S. Baer and Ronald K. Hanson, "In situ Combustion Measurements of CO2 Using Diode Laser Sensors Near 2.0μm", AIAA paper, 2000-0775,2000.
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